知っていましたか?
今施工しているその公共工事、契約金額は半年以上前の資材価格で計算されています。
骨材・アスファルト混合物・コンクリートなど主要な土木資材はこの半年で30%以上値上がりしており、何もしなければ利益はそのまま目減りしていきます。
しかし多くの建設会社は、「スライド条項」という契約上の権利を知らないまま、あるいは手続きの複雑さを理由に、本来受け取れるはずの増額分を請求せずに終えています。
この記事では、スライド条項の仕組み・3つの種類の違い・請求までの具体的な流れを、現場担当者が迷わずに動けるレベルまで整理しました。
スライド条項とは、資材価格や労務単価が契約後に大きく変動した場合に、公共工事の請負代金額を発注者と受注者の協議によって変更できる契約上の制度です。
「全体スライド」「単品スライド」「インフレスライド」の3種類があります。
いずれも国土交通省の公共工事標準請負契約約款に規定されています。
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 制度の種類 | 全体スライド/単品スライド/インフレスライドの3種類 |
| 共通の適用要件 | 残工期が2か月以上あること |
| 申請期限 | 工期末の2か月前まで(早いほど増額幅が大きい) |
| 主な根拠 | 公共工事標準請負契約約款、改正建設業法第20条の2第3項 |
| 対象 | 公共工事(国交省・NEXCO・都道府県・市区町村発注案件)が中心。民間工事は契約書の個別規定による |
スライド条項とは?定義と法的根拠
スライド条項とは、公共工事の契約後に資材価格や労務単価が大きく変動した場合に、請負代金額(工事代金)を見直すことを発注者に求められる契約上の仕組みです。
国土交通省の公共工事標準請負契約約款に定められており、発注機関の約款では一般に第25条または第26条付近に規定されます(発注者・約款の版数により条番号の表記は前後します)。
背景にあるのは、公共工事の入札公告から工事開始までの2~3か月のタイムラグと、採用される市場価格自体がさらに2~4か月前のものであることから、契約金額は「工事開始時点で既に半年以上古い単価」で決まってしまう構造的なギャップです。
骨材・アスファルト混合物・コンクリート等の主要土木資材が短期間で大幅に高騰すると、スライド協議を行わない限り構造的に赤字が発生します。
また、2024年施行の改正建設業法第20条の2第3項により、契約書にスライド条項の定めがない場合でも、契約前に資材高騰のおそれを発注者に通知していれば、後日協議を申し入れられる余地があります。
つまり「契約書に明記がないから請求できない」とは限りません。
民間工事でも、民間(甲)等の標準契約約款に同様の規定(例:第31条第1項第5号等で物価変動を変更事由として規定)が置かれることがありますが、独自書式の場合は対象資材・変動率の閾値・受注者負担割合・協議期限を契約時に明記しておく必要があります。
3つのスライド条項の違い
スライド条項は「全体スライド」「単品スライド」「インフレスライド」の3種類に分かれます。
対象と適用要件がそれぞれ異なります。
| 種類 | 対象となる変動 | 適用の目安(閾値) | 受注者負担割合 | 主な使用場面 |
|---|---|---|---|---|
| 全体スライド | 残工事全体の物価・賃金水準の変動 | 変動額が残工事代金額の1.5%を超える | 1.5%分 | 工期12か月超の長期工事で主に使用 |
| 単品スライド | 鉱材・燃料等特定資材の急高騰 | 対象工事費の1%を超える | 1.0%分 | 工期を問わず、特定資材が急高騰したとき |
| インフレスライド | 特別な要因による賃金・物価の著しい上昇 | 変動額が残工事代金額の1%を超える | 1.0%分 | 全体スライドではカバーしきれない急激な高騰時 |
実務上は、まず単品スライドまたはインフレスライドの適用可否を検討し、それでもカバーしきれない場合に全体スライドを併用するケースが多くあります。
自社の工事がどの方式に該当するかは、契約内容や資材価格の変動状況によって異なるため、単体では判断しづらいケースも少なくありません。
適用条件:共通要件と種類別の閾値
3種類のスライド条項には、根拠となる国土交通省の運用マニュアル・FAQ上、次の共通要件があります。
- 残工期が2か月以上あること(工期終盤での請求は間に合わない仕組み)
- 契約書・契約約款にスライド条項の定めがあること(ない場合は改正建設業法による事前通知で代替可能)
- 変動額・変動率を客観的に示す積算データ・新旧単価対照表などの根拠資料を提出できること
このうちもとも重要なのが「残工期2か月以上」という要件です。値上げの役局への相談や社内決裁に時間をかけすぎると、気付いた時にはすでに残工期が2か月を切っていて請求できない、というケースが実際に発生しています。
種類別の閾値(全体スライド=1.5%、単品・インフレスライド=1.0%)は前章の比較表の通りですが、実際の判定は「物価水準」「賃金水準」を国土交通省・日本建設物価調査会等の公表指数を基に算定するため、自前での簡易判断は難しく、専門知識を持つ第三者に確認を依頼する企業が多いのが実情です。
請求の流れ(4ステップ)
スライド条項の請求は、一般的に次の4ステップで進めます。
- 該当するスライド種別の判定 — 契約条件、工期、対象資材の高騰状況を確認し、全体・単品・インフレのどれに該当するかを判定します。
- 対象範囲(工種・資材・数量)の確定 — 残工事のうちどの部分が対象になるかを確定します。
- 根拠資料(新旧単価対照表・積算データ)の整備 — 発注者が受理できる形式で、旧単価と新単価の差額を根拠とともに数値化します。
- 発注者への正式請求・協議 — 根拠資料を添えて協議を申し入れ、契約変更(増額変更契約)に向けて協議を進めます。
このうち最も手間がかかるのが3の根拠資料作成です。契約金額規模5億円規模の工事で、過去の請求書精査や新旧歩掲の再計算を自社のみで行うと、現場代理人が半月程度(15日×8時間=約120時間)拘束されることも珍しくありません。
申請期限と注意点:早く動くべき理由
スライド条項には「工期終了の2か月前まで」という明確な申請期限が存在します。
この期限を過ぎると、その後の物価高騰分を取り戻せなくなります。
スライド変更は、協議日以降の「残工事」に対して単価が見直される仕組みです。
そのため、請求手続きが遅れるほど残工事量が減り、取り戻せる金額も小さくなります。
逆に言えば、早く動くほど増額幅は大きくなります。
現場では「一度結んだ契約だから金額変更はできない」「うちの自治体では前例がない」といった発注者側の発言で協議を断念するケースが見られます。
しかし公共工事標準請負契約約款には物価変動時の増額変更が明記されております。
各種運用要領に基づいて正しい形式で提出すれば受理される制度です。
感情的な交渉ではなく、客観的な積算データと根拠資料があれば発注者は対応を避けられません。
よくある質問
Q1. スライド条項とは何ですか?
A. 契約後の資材価格・労務単価の変動に合わせて、公共工事の請負代金額を発注者・受注者間の協議で変更できる契約上の制度です。公共工事標準請負契約約款に規定されています。
Q2. スライド条項には何種類ありますか?
A. 「全体スライド」「単品スライド」「インフレスライド」の3種類があり、対象となる資材・変動規模・適用閾値がそれぞれ異なります。
Q3. 申請期限はいつまでですか?
A. 工期終了の2か月前までです。それ以降は残工事量が不足し、協議しても取り戻せる金額が小さくなります。
Q4. 契約書にスライド条項の記載がなくても請求できますか?
A. 公共工事の場合は標準約款により基本的に規定があります。
また改正建設業法第20条の2第3項により、契約前に資材高騰のおそれを発注者に通知していれば協議の余地があります。
民間工事は契約書の個別規定を確認する必要があります。
Q5. 自社で判断や書類作成が難しい場合はどうすればいいですか?
A. 適用要件の判定や新旧単価の積算には専門知識が必要です。
積算・入札・施工管理書類作成を専門とする外部の実務支援サービスを活用することで、自社負担を抑えながら進める企業も増えています。
まとめ:まずは自社の工事が適用対象かを確認する
スライド条項は、資材価格高騰による赤字を回避し、適正な利益を確保するための契約上の正当な権利です。
一方で適用判定・根拠資料作成には専門知識と手間が必要であり、「知らなかった」「時間がなくて諺めた」という理由で多くの建設会社が本来取れるものを取りそこねています。
申請期限は「工期末の2か月前」。余地があると思ったときにはすでに遅い、というのがこの制度の難しさです。
株式会社TAKIOでは、自社の工事がスライド条項の適用要件を満たしているかを完全無料で診断し、適用見込みがある場合は積算データ作成から発注者との協議・請求書作成までを一括でサポートします。
埼玉県・神奈川県の橋梁・河川工事では、本制度の活用により最大約7,000万円規模の増額変更契約に至った実績もあります。
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参考・出典
2026年9月30日 時点の公開情報を基に作成。契約約款の条番号や適用基準は発注機関・改訂時期によって異なる場合があります。
個別の契約に適用する際は、必ず発注者所定の最新の運用基準・契約約款をご確認ください。